繼續bed time story

上一篇 / 下一篇  2007-09-27 23:23:29

(ZT)

むかしむかし、一人の王子が旅をしていました。王子は東の国の王の息子で、その美しさと朗らかな清い心から誰からも好かれる若者でした。旅の途中、ある国で道に迷ったときのこと。王子は森の中の教会で、美しい姫と出会いました。 
「なんと美しい姫だろう。」  
王子は一目で姫を好きになりました。
二人は毎日森の教会で会いました。黄金の太陽が輝く夏の日、王子の奏でる笛の音に合わせて姫が歌いました。銀の月が輝く夜、二人は湖の畔に座り、月が消えるまで将来のことを語り合うのでした。やがて二人は深く愛し合うようになりました。
ところが、そのことを聞いたこの国の王は、大変腹を立ててしまいました。
「我が姫をたぶらかすものは誰か?すぐに捕らえよう。」
王は王子を捕らえるとこう言いました。
「姫は我が目の喜び。旅の王子よ、そなたはそれを奪うものか?」
王子は答えました。  
「姫は私の心の幸い。姫の愛だけが私の望みです。」 
「その言葉に偽りはないか?」
「証を立てるためならば、試みにも甘んじましょう。姫の愛さえあれば、いかなる試練も喜びに変えることができます。」 
「ならば遥か遠くこの世の果ての外つ国へ旅立つがよい。無事戻ることがかなえば、その時、そなたの言葉を信じよう。」 
こうして王は王子を遠い国へ追放してしまうのでした。
遠い国へ旅立つ日。その星を宿したような瞳から涙を溢れさせ、悲しみに打ちひしがれる姫に王子はこう告げました。  
「私は旅立たなければなりません。でもどうか悲しまないでください。私の心はあなたのもの。たとえ世界の果てからでも、いつか必ず迎えに参ります。」  
王子は太陽が沈むこの世の弥終、深い森に向けて旅立ちました。  
それから姫は毎日森の教会で王子の無事を祈りました。いつか王子が迎えに来る日を信じて。 

王子は西に向けてこの世の弥終に進みました。これまでに聴いたことも無い国をいくつも過ぎ、地図にも無い山や谷をいくつも超え、旅を続けました。人気の無い荒地では盗賊から身を守らなければなりませんでしたし、見知らぬの町では悪い役人に騙されることもありました。そんな風にしてようやく西の海に辿り着いた頃、王子はほかの旅人と選ぶところがないほど貧しくみすぼらしい身形になっていました。  
「旅を続けるこの身さえ無事ならば、何を憂うことがあろう。」 
こうして王子はこの世の果てへと続く西の海に乗り出したのでした。 
 
王子が旅立ってからというもの、王は姫の気を晴らそうと国中の道化師や奇術師、ありとあらゆる芸人達を召し上げ、宮廷では来る日も来る日も大宴会が開かれました。  
「姫よ、このものの歌を聞きなさい。なんとも美しい歌声ではないか?」
「とても美しゅうございます。でも、私が聴きたいのはあの方の声だけなのです。」  
「この奇術師はどうだ?叶えられぬ望みは無いという。」  
「私の望みは旅の空の下、あの方が健やかにあることだけです。」
どんなすばらしい芸にも姫の気が晴れることはありません。 
王に暇を許されると姫はすぐに森の教会へ向かい、王子の無事を祈り続けるのでした。

まだ訪れたものも無く地図にも無い西の海の航海はとても厳しいものでした。猛り狂う嵐が幾晩も続くこともありましたし、しんでんのように大きな化け物に船ごと飲まれそうになることもありました。島影が見えず、飢えと乾きが続くことも度々でした。それでも、ようやくこの世の果ての土地に辿り着いた頃、長い船旅は王子をすっかり痩せ衰えさせてしまいました。 
「私にはまだこの足がある、何を躊躇うことがあろう。」  
王子は痩せた足に力を込め、この世の弥終の森へ踏み入って行きました。一足ごとに森はますます深まり、静けさを増していきます。夜、疲れ果てた王子が休もうとすると、森の奥から緑の衣を纏った美しい女の人が現れました。 
「可哀想に、あなたは疲れ果てているのですね。」
「はい、とても。それでも、私は世界を旅しなければなりません。姫への愛の証のため。」 
「悪い夢を見たのですね。あなたはこの森の王子、世界とはこの闇の森のことです。」  
「まさか?あなたはあの黄金の太陽や銀の月を知らないのですか?」  
緑の妃は王子を膝に抱き、あやすように言いました。 
「それらはすべて幻です。この森は心地よいでしょう?私の膝に抱かれていれば暖かいでしょう?」 
そして、琴を奏で、美しい子守唄を聞かせて王子を休ませるのでした。 
それからも、緑の妃は夜になると王子の前に現れ、朝になると去ってゆきました。  
こうして、七日と七晩が過ぎた頃。王子には、外の世界で起こった出来事がすべて幻であったような気がしていました。いまや、森は深い闇に包まれ、朝が来ても日が昇ることはありませんでした。

大宴会が続く宮廷で、ある日吟遊詩人が王と姫の前で歌いました。
「この世の果ての~弥終の~緑の魔女の森深く~」  
これを聴くと姫は驚き詩人に尋ねました。
「この世の果ての森には魔女が住むのでしょうか?」 
「はい、姫様。私は世界中を旅して見聞きして参りました。この世の果ての深い森には魔女が住み、魔女に魅入られたものは二度と再び日の当たる世界に戻ってはまいらぬということ。光を失い、足は萎え、すべての希望を奪われて、闇に閉ざされ果てるのです。」

「あ!!私がこうしているうちにあの方の身にもそのようなことが…」 
この日から姫は教会に籠もり夜も寝ずに祈り続けることにしました。  
明け方教会の窓辺に一羽のハトが現れました。姫を見つめるそのハトのどこか不思議な光を宿す瞳は、まるで姫の悲しみをすべて心得ているようでした。
「ハトよ!ハトよ!お前の翼に乗せて、どうかあの方に私の心を届けておくれ。あの方が闇に包まれているのなら、私から光を奪って届けておくれ。あの方が倒れたのなら、私の命を取って届けておくれ。」  
ハトは大きく羽ばたくと窓辺を飛び立ち、西の空に消えてゆきました。
すると、まるで祈りの言葉が真になったかように、姫の体は冷たくなり、目は閉ざされてしまいました。
王は国の内と外からありとあらゆる医者と呪い師を呼び、姫を見せましたが、姫を治すことができるものはおりません。
姫の体はますます冷たくなり、目は堅く閉ざされたまま。ただ、その愛らしい口元だけが王子の無事を祈る言葉を小さく繰り返すばかりでした。
せめて一目あの旅の王子に会わせてやろうと、王は国中で一番速い栗毛の駿馬に使者を乗せてこの世の果てに送りました。
千の昼と夜が過ぎた頃、疲れ果てた使者が悲しい知らせを持ち帰りました。 
「すでに時は遅く、王子はこの世の果ての森で失われました。もはや、何人も王子を救い出すことはできません。」 
「それでは、あの若者はこの世の果てに辿り着いたのだ。それほど深く姫を愛していたのだ。姫よ、我が娘よ、どうか私を許してほしい。お前を案ずるあまり、私の目は闇ばかりを映していたのだ。真の愛を見抜くことができなかったのだ。」

王子は暗い森に倒れていました。何も見えない闇の中で体は冷え足は萎え、もう長い月日が過ぎたように思えました。気がつくと、闇の中に小さな光が見えました。王子にはその光がとても煩わしく思えたので、きつく目を閉じました。すると、今度は声が聞こえました。

「王子よ、お前はどこにいるのか?」  
「私を呼ぶあなたはどなたでしょう?」  
「私ははじめのときからお前とあり、終わりの時までお前と歩むものだ。」  
「私は疲れ果て暗い森に倒れました。この闇の中でもう私の目は何も映さず足は萎えてしまったのです。このまま眠っていたいのです。」 
「私は愛するものの祈りを運ぶものだ。祈りがお前を闇から遠ざける。立ちなさい。」
それを聴いた次の瞬間、王子の心の中に小さな温もりがありました。熾火のように小さな温もりでしたけれど、王子にはそれで十分でした。 
「私の心には姫の愛がある。何を迷うことがあろう。」 
やがて、再び緑の妃が現れると王子は立ちやがりこう告げました。  
「お妃様、私は旅を続けます。」 
緑の妃はすごし驚いたようでしたが、すぐに優しい声で語り掛けました。 
「また悪い夢を見たのですね。私が子守唄を歌ってあげましょう。ここにいればあなたは二度と傷付くことがありません。悪い夢は終わりました。」
「本当にあなたの言う通りかもしれません。黄金の太陽が輝く夏空も、湖に浮かぶ銀の月も、すべては幻なのでしょう。愛しい姫のバラ色の頬もその鈴の音のような歌声さえも虚しい幻なのかもしれません。それならば、私はこの世界に別れを告げ、幻のために旅を続けます。愛の喜びが無い世界にどれほどの値打ちがありましょう。」
その言葉を聞いた途端、緑の妃は美しい顔を醜く歪めました。歪められた顔の皺は細かく罅割れ、それは、顔中を覆う恐ろしい鱗になりました。正体を現したそのものはぞっとするような長い体と曲々しい黄色目を持つ大きな毒蛇でした。
「蛇よ、今やお前の企みは費えた。愛の名の元に去れ。」

王宮では、王に見守られて横たわる姫の元に国中の民が訪れました。姫は国の民から大変愛されておりましたので、皆、姫の臨終にお別れを告げに来たのでした。そこへ、どこから紛れ込んだものか、一羽のハトが姫の寝屋に入って来ました。お付きのもの達は慌てて追い払おうとしましたが、ハトは一向に逃げようとしません。
「よい。ハトも姫に別れを告げに来たのだろう。」 
王はこう言い、ハトをするがままにしてやりました。するとハトは姫の枕元に舞い降り、姫にこう告げました。
「今や苦難のときは過ぎ、旅は終わりに近づいた。間も無く王子は戻るだろう。行って迎えなさい。あなた方は祝福された。」
そのハトは人々の目にはただの汚れたハトとしか映りませんでしたけれど、姫の閉ざされた目には、輝かしい密使いであることがわかりました。
「私をあの教会に連れて行ってください。」
もうだれも聞くことが無いと思われていた鈴の音のような声で姫が言いました。
密使いが告げたように、姫は教会で王子を待ちました。果たして、静かに教会の扉が開かれました。扉を開けたその若者は大変やつれた様子で、身形もみすぼらしいものでしたけれど、その燃えるような眼差しは間違いなく、あの王子のものでした。 
「姫、私は深い森を抜けてやって参りました。再び巡り合うために、あなたを迎えに来たのです。」 
その言葉を聞いたとき、姫の瞳は眠りから覚めたように静かに開かれ、涙がこぼれ出しました。涙に洗われた頬はバラ色を取り戻し、姫は以前の美しさのままに王子を見つめていました。
「私の心はいつもあなたと共にありました。でもどうか、もう二度と私を離さないでください。」
旅から戻った王子は何も持っていませんでしたので、野辺にあったクローバを編んで指輪を作りました。そして、それを姫の手にそっとはめ、こう言いました。
「あなたは私の心の幸い。二人は今永遠に結ばれたのです。」
こうして姫と旅の王子は結ばれました。王子の誓い通り、二人はいつまでも離れることはありませんでした。


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